岡崎酒造と大阪屋酒店のコト

一度は取引を検討した蔵だった。


2月の厳寒期、私は酒屋の先輩たち5、6人でとスノボに出かけていた。

年に一度の恒例行事であった。その中で私は諸先輩方たちに比べて干支で1まわり以上年下であるが、面倒見のいい先輩たちのおかげで、車を運転することもなく、毎年どこの宿でどこのゲレンデかもわからないところに連れて行ってもらい、ただひたすらに楽しむだけのイベントに興じていた。


2017年、その年も例によってスノボ旅行を楽しんでいた。

たいてい行くのは山梨か長野だ。その年のスノボは長野だった(気がする)。

いつものメンバーの中に長野の酒屋さんがいた。その酒屋さんが

「帰りしなに紹介したい酒蔵さんがあるから寄っていかないか。」

ということになっていた。あくまでも仕事を通した友人関係でもあるので、地元の酒屋が地元の頑張っている酒蔵を仲間内で紹介しあうことは、この業界では当たり前のように起こりえる。

私自身はあまりにもスノボ旅行に興じるあまり、帰りに酒蔵にお邪魔することも忘れていたように記憶している。そしてその時お邪魔したのが、

信州亀齢醸造元、岡崎酒造だ。

上田市の風光明媚で趣のある建物が立ち並ぶ街の一角に岡崎酒造はあった。

その頃ちょうど大河ドラマで真田幸村編が放映されたこともあり、上田市は観光地化を推し進めんと魅せる街としての熱気を帯びさせていた。

案内してもらった蔵は非常にコンパクトで小仕込み。ようやく冷蔵庫新調させ、まさにこれから良い酒造りの環境を整えていくような状況の蔵だった。

蔵元の岡崎社長は婿養子であり、杜氏の娘さんと夫婦で二人三脚で酒造業を営んでいた。

東京で公務員をしていた経験を持つ岡崎社長は物腰が柔らかくもきちっとしたたたずまいのナイスミドルだった。奥様はアカ抜けた美人で”信州亀齢”の”キレイ”は奥様の”綺麗”から来ていると言っても疑わないだろう。


そして初テイスティング。車を運転しない私は先輩を差し置いてゴリゴリにテイスティング。香りは甘やかかつ華やか。味もしっかり乗せているモダンタイプだ。しかし最後のキレがどうしても個人的にしっくりこなかった。しかし一緒にいる先輩たちはその時点で、

「うまいうまい」と湧きあがり、比較的その場で取引に前向きな姿勢を見せていた。

その場にいた私だけその違和感にさいなまれお茶を濁すような回答しかできなかった。

なんとなく原因はしぼりの際に使う式の槽(ふね)なのではないかと感じた。

当時、岡崎酒造の日本酒の絞り方は昔ながらの木槽を使っていた。木槽はモロミを絞るだけで約3日もかかる。木槽はゆっくり絞ることで、空気に触れやすくなりおうおうにして味わいにまろやかさが出てある種のコクのようなものが生まれる。その時間をかける絞り方が岡崎酒造のフレッシュで若々しい酒質にはあまりあってないような気がした。どうしてもそこが気がかりで前のめりになれなかったのだ。これを解消するにはヤブタ式だ。ヤブタ式の絞りであれば1日足らずでお酒が絞り切れる。そうすればさらに若々しさに磨きがかかるのではないか。(「木槽」と「ヤブタ」に関しては個別でググってほしい)

(ヤブタで絞った信州亀齢が飲んでみたい!!)

と心の中で叫んだ。

そして岡崎さんは私の気持ちを見抜いたようにこう言った。

「実は来期の造りからヤブタを買って。ヤブタ絞りにするんです。」

晴天の霹靂

あなたはサトラレか何かですか?


それからちょうど1年後。新期にヤブタで仕込んだ「信州亀齢」を飲んだのは奇しくも蔵見学をした翌年のスノボ旅行の宿。夕食時に新酒の「美山錦 うすにごり」を発見し注文。あの時感じた違和感は見事に消し飛びフレッシュな酒質を損なわないキレの良さは、もはや無双の旨さだった。

そしてその年の長野県の日本酒展示会にて改めてお声がけさせていただき、お取引させていただくに至った。すでに人気が出かけていたこともあり滑り込むように特約店に入ることができた。その後、瞬く間にファンを増やしスターダムへと駆け上がったのはすでに周知の事実である。あの時、新酒の「美山錦 うすにごり」を飲んでおいて本当に良かった。

そして紹介してくれた長野県の酒屋さんに心から感謝申し上げます。

さらに(それを見抜いて?)蔵見学直後から取引を始めていた諸先輩方に、

「Big Respect」


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:2017年当時の蔵の前にて

大阪屋酒店オフィシャルサイト

1923年創業の吉祥寺でこだわりの日本酒、本格焼酎、ワインを中心に販売しております。 お酒の楽しさ、お酒がつなげてくれる人と人、 生活の中にお酒があるということの豊かさを伝えていくために日々努力しています。 更に願わくば蔵元が丁寧に丁寧に想いを込めたお酒を飲んでいただければ幸いです。

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